住まいと暮らしのQ&A

避難行動を妨げる正常性バイアスとは

6月27日夜から翌28日午前中にかけて、九州北部では線状降水帯の発生が予測されていましたが、実際には発生しませんでした。線状降水帯が形成する際に必要な大量の水蒸気が九州南部で費やされ、大雨となりました。そして、予測情報が出ていなかった静岡県で28日11時ごろに線状降水帯が発生しました。
この線状降水帯の発生予測には、空振りや見逃しがあります。予測が当たるのは4回に1回で、昨年度は22回の発生予測のうち、実際に発生したのは9回でした。見逃しも3回に2回程度あるようです。それでも、この情報は身を守るために有効です。

なぜ?危険が迫っているのに「まだ大丈夫」と判断してしまう理由。

線状降水帯が発生する確率という考え方には不思議な面があります。4回に1回の確率25%は高い確率です。宝くじの1等賞に当たる確率は1千万分の1ですが、それでも当たるかもしれないとせっせと購入し続けます。望ましいことが起こる確率は実際の数字よりも高く感じ、望ましくないことが起こる確率は実際の数字よりも低く感じる傾向があります。

この気象情報や避難指示を私たちはどう活かせるのでしょうか。命の危険にかかわる重要な情報です。「また外れるのではないか」「誤報だろう」「まだ大丈夫」と判断していないでしょうか。このように都合の悪い情報を無視し、自分は大丈夫、まだ大丈夫と過小評価して逃げ遅れ、命を失うことがあります。

「みんなが逃げないから、自分だけ逃げるのはおかしい」と動かない。「みんなが逃げないから、大丈夫なんだろう」と考える。会議中に多くのスマホが大音量でアラームを発していても、会議を継続していることがよくあります。

これが心理学で使われる「正常性バイアス」です。普段とは桁違いの災難が降りかかった時、人は脳で処理できなくなるため、異常事態から目を背けて「私は大丈夫」と思い込んでしまいます。誰もがこの正常性バイアスに縛られており、これは脳が起こすシステムエラーです。

韓国で起きた地下鉄放火事件で198人もの死者が出たのは、煙が充満する車内で、口や鼻を抑えながらも逃げずに留まったことが原因です。東日本大震災でも津波警報が出ていたにもかかわらず、避難しない人がいたことが指摘されました。

自然災害の予測の難しさはここにあります。どんなに精度が高くなっても、正常性バイアスが働いている状態を理解し、避難行動ができるようにしなければなりません。